世界はゆるやかに構成されている

「生命は」 吉野弘 生命は自分自身だけでは完結できないようにつくられているらしい花もめしべとおしべが揃っているだけでは不充分で虫や風が訪れてめしべとおしべを仲立ちする生命はすべてそのなかに欠如を抱きそれを他者から満たしてもらうのだ世界は多分…

「愛」をいしずえとして

「愛について」 殿岡辰雄 ひとを愛したという記憶はいいものだいつもみどりのこずえのようにたかく やさしくどこかでゆれている ひとに愛されたというおもいはいいものだいつも匂いやかなそよかぜの眼のようにひとしれずこちらをむいてまたたいている 「愛」…

夕焼けも見ないで

「夕焼け」 吉野弘 いつものことだが電車は満員だった。 そして いつものことだが 若者と娘が腰をおろし としよりが立っていた。 うつむいていた娘が立って としよりに席をゆずった。 そそくさととしよりが坐った。 礼も言わずにとしよりは次の駅で降りた。 …

汲む

「汲む ―Y・Yに―」 茨木のり子 大人になるというのはすれっからしになることだと思い込んでいた少女の頃立居振舞の美しい発音の正確な素敵な女のひとと会いました そのひとは私の背のびを見すかしたようになにげない話に言いました 初々しさが大切なの人に対…

健康で風にふかれながら

「祝婚歌」 吉野弘 二人が睦まじくいるためには愚かでいるほうがいい立派すぎないほうがいい立派すぎることは長持ちしないことだと気付いているほうがいい完璧をめざさないほうがいい完璧なんて不自然なことだとうそぶいているほうがいい二人のうちどちらか…

知命

「知命」 茨木のり子 他のひとがやってきてこの小包の紐 どうしたらほどけるかしらと言う 他のひとがやってきてはこんがらがった糸の束なんとかしてよ と言う 鋏で切れいと進言するが肯じない 仕方なく手伝う もそもそと 生きているよしみにこういうのが生き…